安価な入門機クラスの望遠鏡では、300倍の望遠鏡等というキャッチフレーズで販売しているような望遠鏡も散見されますが、これらは「倍率が高い=よく見える」と何も知識のない人を騙すために謳われているものですので、そのような高倍率を売りにしているような製品は粗悪品の可能性が高いため購入しないように気を付けてください。
まず望遠鏡の適正倍率の基礎知識として望遠鏡の口径と焦点距離と接眼レンズの関係から下記のように倍率と適正倍率を求めることができます。
(倍率)
倍率=望遠鏡の焦点距離÷接眼レンズの焦点距離
例)100倍=800mmの焦点距離÷8mmの接眼レンズ
(適正倍率)
最低倍率=口径(mm)÷瞳孔(5~7mm)
適正倍率=口径(mm)
最高倍率=口径(mm)×2
例)望遠鏡の口径が10cm(100mm)の場合
最低倍率:16倍程度(瞳孔は6mmで算定することが多い)
適正倍率:100倍
最高倍率:200倍
※最高倍率は大気の揺らぎ等の影響を受けやすいため理論値の2倍よりも1.5倍程度が限界なので150倍が適正。
上記のように例えば口径10cm、焦点距離800mmの望遠鏡の場合は適正とされる倍率は16~150倍のレンジで使用することで、その望遠鏡の性能を充分に発揮することが出来るということになります。
適正倍率を超えた倍率まで出した場合は、望遠鏡の性能を超えた倍率になることから、像が暗くなりコントラストが低下することに加えて、像がぼやけてしまい余計に見えない状態になってしまいます。また、適正倍率であっても性能ギリギリまで高倍率を使用した場合は、大気の揺らぎ等の影響を受けてしまうことから、ぼやけた像になってしまいます。なので光学設計上の最高倍率の理論値は2倍ですが、実際の最高倍率は1.5倍程度に留めておいた方がよいということになります。
では、実際に眼視観測で推奨される大まかなな倍率の目安としては下記のような倍率となります。
| 観測対象 | 適した倍率の目安 | 選び方のポイント |
| 月全体 | 低倍率(20∼50倍程度) | 視野の広さを重視し、満月全体をすっぽり視野に入れる倍率を選びます。 |
| 月のクレーター・惑星 | 中〜高倍率(100∼250倍程度) | 像の細部を見るため、望遠鏡の性能と大気の安定度を考慮して倍率を上げます。 |
| 星雲・星団・銀河 | 低倍率(20∼80倍程度) | 淡く広がっている天体が多いため、明るさと広い視野を優先します。 |
| 二重星 | 高倍率(100倍以上) | 2つの星を分離して見るため、高い分解能が必要になります。 |
上記のように300倍などという倍率は通常観測においては無意味な倍率であることが分かるかと思います。
ただ、木星の縞模様や土星の輪をじっくりと観測したいという場合は、高倍率にすることはありますが、その場合でも手持ちの望遠鏡に合った倍率の最高倍率程度に留めておいた方が、しっかりと観測することができます。
※木星の縞や土星の輪は60倍ぐらいから確認することが出来るので、そこまで高倍率が必要なシーンはさほどないかと思います。

